経済小説で有名な橘玲さんの新作小説が出ました。自分は、この人が書いた小説、「マネーロンダリング」、「永遠の旅行者」、「タックスヘイブン」を全て読んでいるファンなので、早速キンドルで購入して読了しました。というわけで、本日は橘玲さんの新作小説「ダブルマリッジ」の感想を書いていきます。まず、結論ですが、この本は、経済、社会派小説が好きで、海外事情(フィリピン)に興味がある人、または橘玲さんの小説を以前に読んでいて面白かったって人には、オススメです。以前の小説とテーマは違いますが、中身の感じは似ていますので、楽しんで読めると思います。
※この記事にはネタバレは含まれていません。
今回のテーマは金融ではなく、戸籍
橘さんの今までの小説は全て、「金融」がテーマになっていましたが、今回は「金融」ではなく、「戸籍、結婚制度」がテーマになっています。ストーリー自体はもちろんフィクションなのですが、ストーリーを肉付けしている法律に関する話は紛れもない事実なので、大変リアリティを感じることができ、ストーリーに入り込めます。そして、小説内で書かれている法律や制度の説明が事実に基いているので、ちょっとした知識を身につけることができます。小説のあちらこちらにそういった制度や法律の実態、矛盾が詳細に描かれており、それを読むだけで、変な新刊を読むよりよっぽどタメになります。「戸籍、結婚制度」がテーマなので、それに関する記述がいっぱいあります。例えば、こんなのです。
[婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による]と記載されています。日本人がマニラで結婚式をあげたとすると、婚姻の挙行地はフィリピンになりますから、フィリピン政府が発行した正式な証明書で日本でも婚姻の事実が認められるんです」
はい、出ました!タメになる法律知識!外国で婚姻した場合はその国の婚姻関係を証明する書類があれば、日本でも婚姻の事実が認められるとのこと。そして、小説のストーリーでは、知らぬ間に自分の戸籍上にフィリピンの女性が配偶者になっていたことから、話が進みます。主人公は既に配偶者がいるのですが、婚姻関係を証明する書類さえ提出すれば、何事もなく戸籍に二番目の妻が記載されるという驚愕の解答が市役所の職員から返ってきます。実生活で一夫多妻をしていた人がマスコミから叩かれた事件がありましたが、重婚は戸籍上はあっさり出来てしまうとのこと!
フィリピンの文化、社会情勢、街並みが詳細に記述されているので海外旅行記としても楽しめる
橘さんの小説の特徴は舞台となる外国の文化、街並み、社会などが詳細に描かれていて、本当にその国を旅しているようなリアルティを感じることができます。今回もその点は、健在!フィリピンのマニラをはじめとした雑多な街の様子とそこに住む人々のメンタリティーが描かれています。例えば、こんな感じの描写。
「カネなんだよ」唐突に、テルはいった。 「えっ?」 「貧しい国っていうのは、マリちゃんが思ってるのとぜんぜんちがうんだ。カネさえ払えば、どんな魔法だって可能になるんだ」 「でもあたし、そんなにおカネ持ってないし」 「いいかい。そっちじゃ1,000円だって大金なんだよ」
10年前ならいざ知らず、現代のフィリピンでもまだそこまで日本と物価に差があるのか!たった1,000円でそこまで人を動かせるのか!と読んでいて、驚きました。そんなに貧しくても、フィリピンはカトリックの国なので、家族に優しく、困っている人にも寛容とのことです。
日本大使館前は一時期、朝になると困窮邦人が列をなしていると、フィリピン在住の日本人のあいだで話題になった。 「捨てる神あれば拾う神ありで、彼らは親切なフィリピン人に面倒みてもらってるんですよ。」
困窮邦人とは、日本人が現地の女性と結婚して外国に移住したけど、お金が無くなり捨てられて一文無しになって、現地の国でホームレスみたいな生活をしている人たちのこと。 一時期、ちょっと話題になりましたよね。こういう舞台となる国のリアルな描写があるので面白いです。
残念だった点は、主人公の1人である男性主人公に共感できないこと
良い点ばかり、記載しましたが、残念だったのは、男性主人公があんまり人間として尊敬できずに、共感できない点です。今回の小説は、父親と娘の二人の視点で描かれています。娘の方は、物語が進むにつれて、人間として成長していくので、読者として気持ち良く感情移入できます。一方、父親の方は普通のサラリーマンなのですが、一貫して自己中心的に振る舞いますので、これまでの橘さんの小説の主人公のように応援したくなるタイプではありません。なので、主人公には主人公らしく振る舞ってほしいと考えている人は肩透かしをくらうかもしれません。
本日の社会を生き抜く知恵
外国の婚姻を証明する資料があれば、配偶者がいる場合であっても、戸籍上に二人目の妻が記載される。